映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」〜おかえりお母さん〜

 90歳代両親の老老介護の生活を娘が撮り続けたドキュメンタリー「ぼけますから…」(2018年)。「おかえりお母さん」とサブタイトルのついた続編をきのう、道新ホールで見た。夫婦の一人娘で映画監督の信友直子さんが第一作同様、小型カメラをもって夫婦に話しかけながらナレーションも手掛けた。
Image_20230306_0001.jpg
 上のチラシによると、「本作は前作をひも解きながら、その後の夫婦の物語を描く。老老介護、認知症、看取り。日本全体が抱える高齢化社会のリアルな問題をありのままに、かつ時にユーモラスに綴っていく」

 同じような手法で娘が老親の最晩年の姿を赤裸々に撮り続けたドキュメンタリー(こちらはテレビだったが)として老名優、織本順吉を描いたものを観たことがある。「老い」に加えて「役者」というテーマがあり、厳粛なシーンの連続に見ていてしんどかった。こちらは、ふつうの老妻がアルツハイマー型認知症を発症し、ふつうの夫(妻他界まもなく100歳に達した)が甲斐甲斐しく世話し看取る。夫婦のキャラクターがユーモラスでカラッとしているところに救いがあった。

 上映後に信友監督がステージに登場。撮影の裏話などを披露してくださった。

 広島県呉市で夫の介護を受ける信友文子さんが自宅療養中、通い慣れた美容院に行くシーン。それまでの無表情が、美容院に行くと決まった途端、表情が輝き、口紅を差す。髪をセットし終えると表情はいよよ輝く。
  
 また、認知症に加え脳梗塞を発症、病院での寝たきりが進み、脳梗塞の再発。治療型病院からいよいよ療養型施設に移る時、自宅に立ち寄る。介護タクシードライバーに抱えられて住み慣れた、家族との思い出深い我が家に入る意識混濁の人が、覚醒を取り戻し涙ぐむ姿。

 第2作「おかえり」のサブタイトルはこの感動的シーンから生まれた。

 映像作家であり、2人に深い愛ではぐくまれた娘として、かずかずの奇跡に立ち会えた意義を静かに語る信友直子さん。介護する父とされる母の最期の別れに立ち会って、「人間として見せる2人の姿は親が命がけでしてくれる最後の子育て、私への教育だと思った。悲しいけれど、両親に心から感謝する」といった意味のことをおっしゃった。

 トークのあと、会場から「お父さんはいま?」の質問が飛んだ。
 「いま102歳、ハンバーグ定食の大盛ライスをぺろりと平らげるほど元気。以前同様呉で、今は東京から戻った私と暮らしていますが、こうして私が遠出する時は一人になる。前作に次いで第2作の”出演”で、もうすっかり地元の有名人。商店街などで声を掛けてもらっています」

 これには会場がどっと沸いた。

 それからもうひとつ。信友監督のトークで重要な紹介あった。母君が治療病院に入院中、寝たきり意識混濁で誤嚥性肺炎を起こし、経口摂食でなく胃ろうに切り替えることになった。療養型病院への転院の条件の1つが「胃ろう」。これによって1年間は延命したと言えるが、果たしてそれでよかったのか。

 これは私たちに向けた問い掛けでもある。









この記事へのコメント