丸谷才一編「作家の証言」完全版
先週土曜(2月25日)毎日新聞読書面で、「作家の証言」(中央公論新社刊、3960円)の書評(評者は池澤夏樹氏)を読んだ。わたくしごとながら、キタが新聞記者になった年の1972年に「四畳半襖の下張」わいせつ文書事件が起きた。作家丸谷才一氏が裁判で被告側の特別弁護人を務めた。「作家の証言」は証人席に立った著名文学者たちの陳述など裁判記録を再現した。表現の自由をめぐる裁判とあって、新人記者キタはビビビと反応したことを思い出す。
▲毎日新聞2月25日読書面
池澤の冒頭の紹介によると、1972年、野坂昭如は編集長を務める雑誌「面白半分」に伝永井荷風の短編「四畳半襖の下張」を掲載した。/刊行の17日後、警視庁保安一課がこれをわいせつ文書と認定、全国の書店から押収した。野坂と発行人の佐藤嘉尚はわいせつ文書販売で起訴した。
裁判は起訴の翌年73年9月10日に初公判、判決は第一審、第二審とも有罪(野坂に罰金10万円、佐藤に罰金15万円)。被告人側は上告したが、最高裁判所第二小法廷はこれを棄却した(1980年(昭和55年)11月28日第二小法廷判決)。
この書名はなぜ「完全版」とあるのか。かつて有罪判決を受けた大元の「四畳半襖の下張」全文がこの本に収録されているからだろう。その筋のおとがめなしに。つまり最高裁で有罪が確定してから43年後、再審請求することなく、暗黙の裡に「無罪」を勝ち取ったということに他ならない。時代の推移とはいうものの、当時の判決がいかにバカげたものであったかを如実に示す書名ではある。
ところで、書評を読んでから思い出した。たしかわが家にこの裁判の関連雑誌があるはずだと。書棚を捜索すること1時間、あった、あった。A5判116ページ、開くとどのページも黄色く色あせた「面白半分」(1976年)4月臨時増刊号。

当時、380円で買った4月臨時増刊号は、一審結審後判決を待つ期間に発行された。前年12月に次ぐ3冊目。しかし、その内容については記憶が
まったくない。恥ずかしいことだが。
それで改めて、この1,2日目を通してみた。いや、おもしろい。一審の特別弁護人である丸谷氏らに指名されて被告側の証人席に立った文人たち。五木寛之、井上ひさし、吉行淳之介、開高健、中村光夫、金井美恵子、石川淳、田村隆一、有吉佐和子。第3増刊号には田村と有吉の証人陳述が詳報されている。さらには丸谷特別弁護人の最終弁論、野坂被告の最終意見陳述。
これらの陳述は、時代を超えた一流文人の文学論になっている。しかも、証人らが法廷で対話する相手は普段接する市民や文学通ではなく、別世界ー法曹界に住まいする裁判官、検察官であるから、いつもよりわかりやすく語っている。だからなおなお新鮮だ。
この「380円」冊子は、これから買って読む「完全版」の予習になると思った。今となってはよい買い物だった。

池澤の冒頭の紹介によると、1972年、野坂昭如は編集長を務める雑誌「面白半分」に伝永井荷風の短編「四畳半襖の下張」を掲載した。/刊行の17日後、警視庁保安一課がこれをわいせつ文書と認定、全国の書店から押収した。野坂と発行人の佐藤嘉尚はわいせつ文書販売で起訴した。
裁判は起訴の翌年73年9月10日に初公判、判決は第一審、第二審とも有罪(野坂に罰金10万円、佐藤に罰金15万円)。被告人側は上告したが、最高裁判所第二小法廷はこれを棄却した(1980年(昭和55年)11月28日第二小法廷判決)。
この書名はなぜ「完全版」とあるのか。かつて有罪判決を受けた大元の「四畳半襖の下張」全文がこの本に収録されているからだろう。その筋のおとがめなしに。つまり最高裁で有罪が確定してから43年後、再審請求することなく、暗黙の裡に「無罪」を勝ち取ったということに他ならない。時代の推移とはいうものの、当時の判決がいかにバカげたものであったかを如実に示す書名ではある。
ところで、書評を読んでから思い出した。たしかわが家にこの裁判の関連雑誌があるはずだと。書棚を捜索すること1時間、あった、あった。A5判116ページ、開くとどのページも黄色く色あせた「面白半分」(1976年)4月臨時増刊号。

当時、380円で買った4月臨時増刊号は、一審結審後判決を待つ期間に発行された。前年12月に次ぐ3冊目。しかし、その内容については記憶が
まったくない。恥ずかしいことだが。
それで改めて、この1,2日目を通してみた。いや、おもしろい。一審の特別弁護人である丸谷氏らに指名されて被告側の証人席に立った文人たち。五木寛之、井上ひさし、吉行淳之介、開高健、中村光夫、金井美恵子、石川淳、田村隆一、有吉佐和子。第3増刊号には田村と有吉の証人陳述が詳報されている。さらには丸谷特別弁護人の最終弁論、野坂被告の最終意見陳述。
これらの陳述は、時代を超えた一流文人の文学論になっている。しかも、証人らが法廷で対話する相手は普段接する市民や文学通ではなく、別世界ー法曹界に住まいする裁判官、検察官であるから、いつもよりわかりやすく語っている。だからなおなお新鮮だ。
この「380円」冊子は、これから買って読む「完全版」の予習になると思った。今となってはよい買い物だった。
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